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福祉用具事業承継の実務|指定・利用者契約・国保連請求を止めない切替手順

2026 8/04
福祉用具業界のM&A
2026-08-04
福祉用具事業承継の切替計画を確認する経営者と専門スタッフ

福祉用具貸与・販売会社の承継では、株主や代表者が変わることよりも、利用者の暮らしを支えるサービスが一日も途切れないことが重要です。特殊寝台や車いすは、契約書の上だけで動いているのではありません。利用者宅に置かれ、福祉用具貸与計画に位置づけられ、ケアマネジャーやご家族との連絡、毎月の介護給付費請求、故障時の交換、回収後の洗浄・消毒までが一つの運用としてつながっています。承継日を境にこの鎖のどこかが切れると、利用者の不安、請求の返戻、機器の所在不明、職員の離職が同時に起こりかねません。

本稿は、福祉用具会社の経営者が事業承継やM&Aを検討するときに、指定、利用者契約、国保連請求、レンタル資産、洗浄・消毒、物流、人員、個人情報をどう切り替えるかを実務の順番で解説します。「福祉用具事業承継」の手続を一枚の届出一覧だけで終わらせず、利用者ごとのサービス継続まで落とし込むための手引きです。制度や申請期限は自治体、承継形態、事業所の状況により異なるため、実行時には指定権者、国保連合会、顧問専門家へ早期に確認してください。

この記事の目次

  1. 承継実務の結論
  2. 承継方式の選び方
  3. 12か月の工程表
  4. 指定手続
  5. 利用者契約
  6. 国保連請求
  7. レンタル資産
  8. 洗浄・消毒・物流
  9. 人材承継
  10. 個人情報とシステム
  11. Day1切替手順
  12. 最終チェックリスト
  13. よくある質問

まず押さえる結論:承継日は「会社の日付」ではなく「サービス接続日」

承継計画の品質は、契約締結日や株式代金の決済が予定どおりだったかだけでは測れません。承継日の朝に担当者が通常どおり電話を取り、納品・交換・回収の指示が見え、利用者から受け取る金額と国保連合会へ請求する事業者が一致し、ケアマネジャーが連絡先を迷わない状態をつくれているかが判断基準です。そのため、法務、介護保険実務、現場運用、会計、システムの担当者が一つの切替表を共有する必要があります。

論点 承継前に確定すること 承継日後の確認証跡
指定・届出 承継方式ごとの新規指定、変更、廃止の要否と受理時期 指定通知、事業所番号、届出控え、情報公表内容
利用者 契約主体、重要事項、利用料、口座、連絡先の変更範囲 説明記録、同意・契約書、交付記録、問い合わせ台帳
地域連携 ケアマネジャー、地域包括、医療機関、自治体への連絡順 連絡先一覧、送付履歴、担当者別フォロー記録
国保連請求 サービス提供月、請求事業所番号、給付管理票との整合 伝送結果、返戻一覧、再請求結果、入金消込
レンタル資産 所有・再レンタル・リースの区分、利用者宅の機器台帳 棚卸差異、個体番号、契約承継、保険付保
衛生・物流 回収、洗浄、消毒、点検、保管、配送の責任分界 工程記録、点検票、委託先報告、事故・苦情記録
人員 管理者、福祉用具専門相談員、請求担当、配送担当の配置 勤務表、資格証、雇用書類、研修・引継ぎ記録
個人情報 承継対象データ、利用目的、権限、移行方法、廃棄方法 移行ログ、権限棚卸し、秘密保持、バックアップ確認

「福祉用具事業承継」を成功させる近道は、上表の各行に責任者、期限、前提条件、完了証跡を設定することです。「対応済み」という口頭報告ではなく、どの利用者、どの事業所番号、どの機器、どの請求月まで確認したかを追跡できる状態にします。

承継方式を決める前に、指定と契約の動きを描く

株式譲渡は法人を残せるが、何もしなくてよいわけではない

株式譲渡では、原則として会社そのものは同じ法人として存続します。指定を受けた法人、利用者との契約当事者、従業員の雇用主、レンタル資産の所有者が形式上変わらないため、福祉用具事業の連続性を設計しやすい方式です。代表者、役員、連絡先、運営規程などに変更が生じれば、介護保険上の変更届、登記、金融機関、取引先、保険契約等の更新が必要になる場合があります。株式譲渡だから自動的に届出不要、と決めつけず、指定権者の様式と提出期限を確認します。

また、法人が同じでも実務は変わります。仕入先への発注承認、親会社の会計科目、端末のセキュリティ、請求データの承認、苦情のエスカレーション、資金繰りの決裁者などが切り替わります。現場から見れば、株式譲渡も十分に大きな変更です。買い手は「法人が残るから簡単」と扱わず、譲渡企業が長年築いた地域の連絡作法や例外処理を引き継ぐ必要があります。

事業譲渡は承継対象を選べる一方、個別移転が増える

事業譲渡では、対象事業の資産、契約、従業員その他の権利義務を合意した範囲で別法人へ移します。不要資産や対象外事業を切り分けられる反面、利用者契約、仕入・再レンタル契約、倉庫賃貸借、車両リース、通信、保守、雇用などを一件ずつ確認する仕事が増えます。相手方の承諾が必要な契約や、名義変更では済まず再契約となる契約もあります。

介護保険の指定は法人と事業所に結びついています。別法人へ事業を移す場面では、譲受法人が新規指定を要することを基本線として、指定権者へ事前相談します。厚生労働省の介護サービス関係Q&Aは、A法人がB法人に吸収合併され、B法人が事業所を引き継ぐ例について、B法人の事業所として申請に基づく指定が必要とし、指定日のずれによるサービスの空白を避けるため相当の期間をもって申請するよう示しています。事業譲渡でも、法人格が変わるという核心は同じです。ただし、自治体の審査日程や取扱いは必ず個別確認します。

合併・会社分割では包括承継の範囲と指定手続を別々に考える

合併や会社分割は会社法上の包括承継を利用できる場面がありますが、それだけで介護保険の指定が当然に移るとは限りません。労働契約、取引契約、資産の承継効果と、行政上の指定申請・届出は別の層にあります。吸収合併で消滅会社の事業所を存続会社が運営するなら、新規指定が必要となる可能性を前提に日程を引きます。一方、有限会社から株式会社への組織変更のように法人格の同一性が保たれる場合について、同Q&Aは変更届で差し支えない例を示しています。

なお、吸収合併・吸収分割等の前後で事業所が実質的に継続すると指定権者が認める場合、新規指定そのものは必要でも、申請書類の簡素化や介護報酬上の実績通算などの柔軟な取扱いが可能です。適用の可否と提出資料は指定権者へ事前に確認します。

方式選択の議論では、税務や譲渡価格だけでなく、指定の空白リスク、利用者契約の再締結件数、従業員から得る同意、資産名義の切替、国保連請求の主体を比較します。最も税務効率がよい方式が、最も安全にサービスをつなげられる方式とは限りません。

12か月前からつくる福祉用具事業承継の工程表

承継検討期:対象事業所とサービスの「地図」をつくる

最初に、法人単位ではなく事業所単位の地図を作成します。福祉用具貸与、介護予防福祉用具貸与、特定福祉用具販売、介護予防特定福祉用具販売、住宅改修、保険外販売、他の介護サービスをどの拠点で行っているかを一覧にします。各事業所について、指定権者、事業所番号、指定有効期間、管理者、福祉用具専門相談員、通常の事業実施地域、倉庫・消毒拠点、国保連の伝送環境を対応させます。

同時に、利用者数を単純な合計だけで見ないことが大切です。要介護・要支援、保険者、居宅介護支援事業所、品目、再レンタル会社、直近モニタリング月、軽度者例外給付、生活保護等の公費、入院・入所中、請求保留、未収金の有無まで分解します。この地図がないまま承継日を決めると、あとから特殊な請求や個別対応が見つかり、日程が崩れます。

基本合意前:秘密保持と情報開示の粒度を決める

初期検討で利用者名、住所、病歴、身体状況を買い手候補へ丸ごと渡す必要は通常ありません。件数、地域、品目構成、契約単価、解約率、モニタリング状況などを匿名化・集計化し、評価に必要な情報を段階的に開示します。候補先を絞り、法的根拠と利用目的を確認してから詳細データへ進む設計が安全です。閲覧者、ダウンロード可否、透かし、アクセス期限、削除確認をデータルームで管理します。

現場職員やケアマネジャーへ早すぎる噂が広がると、利用者の不安と人材流出を招きます。一方で、遅すぎる告知は切替準備を不可能にします。いつ、誰に、何を伝えるかを、情報の必要性と漏えい時の影響から決めます。守秘義務は単に情報を隠すためではなく、適切な順番で説明して信頼を守るための仕組みです。

最終契約前:行政相談と切替日程を条件に組み込む

指定権者への相談は、契約締結後に始めるのでは遅いことがあります。承継方式、法人、所在地、人員、設備、予定日を整理し、新規指定、変更、廃止、休止、業務管理体制、介護サービス情報公表などの手続を確認します。指定審査に締切日や定例日がある自治体では、希望する承継日から逆算します。疑義がある場合は、相談日時、部署、担当者、質問、回答を記録し、後任者が再現できるようにします。

最終契約には、必要な指定が承継日までに得られること、重要な契約の承諾が得られること、主要人員が残ること、利用者説明が法令と自治体方針に沿って行えることなどを前提条件として定めることがあります。条件を満たせない場合の延期、対象除外、価格調整、協力義務も検討します。契約の法律用語と現場の工程表を連動させることが重要です。

指定手続:新規・変更・廃止を一つのカレンダーで管理する

指定権者への事前相談で伝えるべき情報

相談時には「M&Aをします」だけでなく、旧法人と新法人の名称・法人番号、株式譲渡・事業譲渡・合併等の方式、対象事業所、所在地変更の有無、人員・設備の変更、予定する最終サービス提供日と開始日を提示します。旧事業所の廃止日と新事業所の指定日が連続するか、同じ事業所番号を使えるか、新規番号となるか、利用者契約や請求の案内で注意すべき点を確認します。

自治体から口頭で得た回答は、社内の切替表へ落とし込みます。提出書類名、様式番号、添付資料、原本・写し、押印、提出方法、提出期限、補正期限、担当者、受付番号を記載します。複数自治体で事業を行う会社では、同じ承継方式でも運用や日程が異なることがあるため、自治体ごとの列を設けます。

人員基準を「在籍予定」ではなく勤務実態で確認する

厚生労働省の指定居宅サービス等基準では、指定福祉用具貸与事業所ごとに福祉用具専門相談員を常勤換算方法で二以上置くこと、原則として専ら職務に従事する常勤の管理者を置くことが定められています。兼務や一体運営による取扱いには条件があります。承継時には名簿だけでなく、雇用開始日、所定労働時間、兼務先、資格証、勤務形態一覧表を突き合わせます。

特に事業譲渡では、従業員の労働契約が自動的に移るとは限りません。厚生労働省の事業譲渡等指針は、事業譲渡における労働契約の承継には承継予定労働者の個別承諾が必要という基本原則を示しています。買い手の雇用条件、勤務地、勤続年数の扱い、退職金、有給休暇、評価制度を説明し、十分な検討期間を確保します。承諾書だけを急いで集め、本人の納得を置き去りにすると、承継直前の離職につながります。

設備・運営規程・掲示まで差分を洗う

指定申請書類は、事務室、相談スペース、保管設備、通信環境、図面、写真、賃貸借契約などを含むことがあります。所在地を変えない場合でも、新法人が建物を使用できる根拠を確認します。運営規程、重要事項説明書、料金表、苦情窓口、事故対応、虐待防止、感染症・業務継続、個人情報、ウェブ掲載情報に旧法人名や旧連絡先が残らないよう、文書管理台帳で差替日を管理します。

「福祉用具事業承継」では、指定通知が出た時点をゴールにしがちですが、実地で使う帳票とウェブサイトが更新されて初めて切替が完了します。古い重要事項説明書を印刷した在庫、車両内の申込書、営業担当者の端末に保存されたPDF、ケアマネジャー向け料金表まで確認します。

利用者契約:法的な移転と、安心を得る説明は分けて考える

契約当事者が変わるかを利用者単位で判定する

株式譲渡で法人が同じなら、通常は利用者契約の当事者も変わりません。ただし、代表者名、窓口、請求書表記、口座、プライバシーポリシー、サービス体制などの変更を案内します。事業譲渡で契約を新法人へ移すなら、契約条項と民法上の取扱いを確認し、利用者の同意を得た契約承継または新規契約を設計します。包括的な一枚の案内だけで済ませず、誰がいつからサービス提供者となるかを明確にします。

同じ世帯でも、利用者ごとにケアプラン、機器、負担割合、支払方法が異なります。契約移行台帳は世帯単位ではなく被保険者単位で作り、旧契約番号、新契約番号、保険者、担当ケアマネジャー、貸与品、説明日、説明者、同意日、書類交付日、未回収書類、特記事項を管理します。

説明文は「会社都合」より利用者が知りたい順番にする

利用者が最初に知りたいのは、今使っているベッドや車いすを返す必要があるのか、担当者は変わるのか、料金は上がるのか、故障時にどこへ電話するのか、介護保険の手続が必要かという点です。M&Aの専門用語や企業グループの説明を先に長く置くより、サービス継続、機器、料金、担当、緊急連絡先、必要な手続の順で示します。

高齢の利用者、認知機能に不安がある利用者、独居、家族が遠方にいる利用者、成年後見制度を利用している利用者など、説明先と理解確認の方法は一様ではありません。契約者、利用者、家族、代理人の関係を確認し、必要に応じてケアマネジャーと連携します。電話だけで終えず、文書交付と説明記録を残します。

福祉用具貸与計画は承継のために形式的に作り直さない

指定居宅サービス等基準は、福祉用具貸与計画を利用者の希望、心身の状況、環境に基づいて作成し、既存の居宅サービス計画に沿わせ、利用者または家族へ説明して同意を得た上で、利用者と介護支援専門員へ交付することを求めています。承継を理由に日付だけ変更した計画を一括作成するのではなく、契約主体や担当者の変更が計画内容に影響するかを判定します。

モニタリングの予定、選定理由、身体状況、利用環境、複数商品の情報提供、使用方法の説明、点検結果などの記録が旧システムから新システムへ完全に移ることが重要です。承継時の一斉訪問をモニタリングと扱うなら、通常の要件を満たす内容と記録があるかを確認します。単なる書類回収訪問と専門的なモニタリングを混同しません。

ケアマネジャー・地域関係者への連絡が解約率を左右する

居宅介護支援事業所には利用者別の情報を整合させて伝える

福祉用具貸与は、担当ケアマネジャーとの日常的な連携で成り立ちます。法人名、事業所番号、開始日、担当者、連絡先、請求上の変更、計画書の扱いを、対象利用者の一覧とともに安全な方法で共有します。居宅側の給付管理票と貸与事業者の請求に異なる事業所番号が載れば、返戻や保留につながるため、何月提供分から切り替えるかを明記します。

一斉FAXだけでは、受信確認、担当変更、休職、事業所移転を取りこぼします。重要度の高い居宅介護支援事業所、利用者数の多い先、直近に変更案件がある先を優先し、送付、電話確認、未確認先の再連絡を管理します。担当営業だけが個人の記憶で把握している関係を、組織の連絡台帳へ移す好機でもあります。

地域包括支援センター・医療機関・施設にも役割別に伝える

要支援利用者に関わる地域包括支援センター、退院支援を行う医療機関、ショートステイや有料老人ホーム等の関係施設、住宅改修で連携する施工事業者、地域の行政窓口にも、必要な範囲で変更を案内します。全関係者へ同じ文面を送るのではなく、相手が更新すべき情報を明示します。たとえば医療機関には退院時納品の窓口、施工事業者には発注・請求主体、自治体には申請書上の事業者情報が重要です。

告知は営業活動ではなく、利用者の安全を守るための業務連絡です。譲渡価格や交渉経緯のような不要情報は載せず、サービスの継続、担当、連絡先、個人情報の扱い、必要な書類に絞ります。問い合わせに答えるQ&Aを社内で統一し、回答できない質問のエスカレーション先を用意します。

国保連請求を止めないための「サービス月・番号・給付管理」管理

月末と承継日を安易に一致させない

月初承継は請求主体を分けやすいように見えますが、新規指定日、利用者契約日、データ移行、金融機関休業日、人員配置がそろわなければ安全とは限りません。月中承継では、貸与費の日割りや請求主体の整理、旧新双方の利用者負担、給付管理票の記載を事前に確認する必要があります。日程は取引上の都合だけで決めず、指定権者と国保連合会へ具体的なサービス提供例を示して相談します。

介護給付費請求書の記載要領は、請求事業所欄に指定事業所番号、指定時に届け出た名称・所在地等を記載する考え方を示しています。したがって、旧番号で提供したサービスを新番号から送ればよい、という単純な置換は危険です。サービス提供年月、契約主体、指定の効力、給付管理票、請求データ、利用者負担請求が同じ筋書きになっているかを確認します。

請求切替表は利用者×提供月×事業所番号で作る

請求担当者が必要とするのは、会社全体の承継図より、各利用者の各月をどの番号で請求するかという表です。少なくとも被保険者番号、保険者番号、要介護度、有効期間、負担割合、担当居宅、旧新事業所番号、商品コード、単位数・貸与価格、開始・終了日、公費、請求保留理由を持たせます。移行前後の件数・金額を旧システムの月次実績と照合します。

「福祉用具事業承継」の請求テストでは、本番と同じデータ量の全件照合を行うことが理想です。少なくとも、通常貸与、複数商品、月途中開始・終了、入退院、軽度者例外給付、公費併用、負担割合変更、上限価格改定、保留・過誤、生活保護などの代表パターンを選びます。結果は担当者の画面確認だけでなく、入力値、出力値、期待値を保存します。

返戻はゼロを前提にせず、当日対応できる体制をつくる

承継直後は、受給者情報、給付管理票、事業所情報、サービスコード、開始・終了年月の不一致が表面化しやすくなります。伝送結果を受け取る担当者、エラーを分類する担当者、居宅介護支援事業所へ確認する担当者、再請求を承認する担当者を決めます。旧法人にしか分からない過去請求の照会に備え、協力期間と連絡窓口を契約で定めます。

返戻一覧は「件数が少ないから問題なし」で終えません。理由コード別、事業所番号別、担当居宅別、旧新システム別に集計し、承継起因の共通原因を探します。入金時には請求総額、査定、返戻、保留、利用者負担、振込額を照合し、未収や二重入金を防ぎます。旧法人へ入った承継後相当の入金、新法人へ入った過去月再請求分をどう精算するかも決めておきます。

利用者請求・口座振替も国保連と同じ重要度で扱う

介護給付費の伝送が成功しても、利用者負担の口座振替が止まれば現場は混乱します。収納代行会社との契約、口座振替依頼書の再取得要否、預金者への案内、振替日、通帳印字、請求書・領収書の名義を確認します。事業譲渡では旧法人から新法人への口座情報の移行根拠と安全な受渡方法も整理します。

承継月は、旧新双方から請求書が届く、同じ月に二回引き落とされる、逆に引落しがない、といった不安が生じやすい時期です。利用者向け案内には金額例と問い合わせ先を載せ、二重徴収を検知する突合を用意します。過不足があった場合の返金手順、会計処理、説明文も承継前に決めます。

レンタル資産:利用者宅にある一台まで所有権を追う

自社所有・再レンタル・リース・預り品を分ける

貸与中の特殊寝台が譲渡企業の固定資産とは限りません。卸会社からの再レンタル、ファイナンス・リース、メーカー貸与、デモ品、修理代替品、利用者や施設の所有物が混在することがあります。個体番号、TAISコード等の商品識別、製造番号、所有者、調達契約、利用者、設置場所、付属品、開始日、月額原価、保険、最終点検日を一つの台帳で結びます。

事業譲渡契約の資産一覧が「福祉用具一式」となっているだけでは、第三者所有品を誤って譲渡対象に含めたり、必要な付属品を漏らしたりします。ベッド本体、サイドレール、マットレス、介助バー、テーブルの所有者が異なるケースも確認します。現物棚卸しは倉庫だけでなく、利用者宅、施設、車両、修理先、洗浄委託先、営業所を対象にします。

利用者宅の機器は「現物を動かさず、台帳を正しく動かす」

承継のためだけに安全に使用中の機器を一斉回収・再納品することは、利用者負担と事故リスクを増やします。契約・所有権・保守責任を適切に移し、現物は継続使用する設計を優先します。ただし、所有権移転ができない再レンタル契約や、買い手の採用品基準に合わない機器がある場合は、利用者の身体状況とケアプランを踏まえ、ケアマネジャーと連携して個別交換を計画します。

交換が必要な場合も、単に同等価格の商品を選ぶのではありません。身体寸法、移乗方法、住環境、介助者、他の用具との組合せ、搬入経路、停電時・故障時の対応を再評価します。説明、同意、計画変更、納品時調整、使用指導、旧品回収を一連の案件として記録します。

在庫評価と安全性評価を同じ台帳で行う

会計上の簿価が残っていても、部品供給終了、修理不能、衛生上の懸念、事故情報、現行基準との不整合があれば、継続貸与できる価値は低くなります。逆に簿価が小さくても、整備履歴が明確で稼働率が高い機器は事業価値を支えます。買い手は数量だけでなく、年式、稼働・待機・修理・廃棄予定の状態、点検履歴、メーカー対応年限を確認します。

事故・ヒヤリハット、リコール、メーカー通知をどの担当が受け、該当個体を検索し、利用者へ連絡するかも承継します。厚生労働省は福祉用具の安全利用と事故情報の参照を案内しています。連絡先メールだけを新しくして、過去の対象機器台帳や対応履歴が検索できなくなる状態を避けます。

洗浄・消毒・点検・物流:見えにくい工程ほど現場確認する

回収から再貸与までの一方向動線を確認する

福祉用具は、回収品と消毒済み品が交差しない動線、適切な洗浄・消毒、乾燥、点検、包装、保管があって初めて再貸与できます。外観がきれいかだけでなく、工程区分、作業標準、使用薬剤、濃度・時間、機器ごとの分解範囲、乾燥確認、機能点検、作業者、実施日を確認します。承継後に委託先を変更する場合は、新旧拠点の処理能力と配送時間を見積もります。

指定居宅サービス等基準は、常に清潔かつ安全で正常な機能を有する福祉用具を貸与すること、提供時に機能、安全性、衛生状態等を点検することを求めています。承継直後の在庫不足を恐れて洗浄・点検の滞留品を安易に出荷してはいけません。未処理、処理中、処理済み、不合格、修理待ち、廃棄待ちの表示を統一し、旧ラベルとの読替表をつくります。

委託先との責任分界と記録の帰属を決める

洗浄・消毒や配送を外部委託している場合、契約名義だけでなく、回収指示、紛失・破損、納期遅延、感染症発生、事故報告、再委託、記録保存、監査権限を確認します。過去の作業記録が譲渡企業、委託先、新会社のどこに残るかも重要です。契約終了と同時に委託システムへアクセスできなくなると、個体履歴の証明が困難になります。

物流ルートは地図だけでは評価できません。午前の退院納品、当日交換、山間部や離島、施設の搬入時間制限、二人作業、大型車両の進入制限、鍵の受渡しなどの例外を洗い出します。担当者の頭の中にある「火曜日はこの地域を回る」「この病院は退院時間が読みにくい」といった知識を、配車ルールと引継ぎメモへ変えます。

緊急交換の連絡網を承継日前に実地テストする

電動ベッドの故障、車いすのブレーキ不良、エアマットの警報などは、営業時間外にも起こります。受付、一次切分け、代替品手配、訪問、メーカー連絡、ケアマネジャー・家族への報告までの連絡網をテストします。旧会社の電話転送を一定期間残す場合は、個人携帯への転送や録音データの扱いも確認します。

承継前に机上訓練を行い、「土曜夜に旧番号へ故障連絡」「新システムで利用者が検索できない」「再レンタル品の契約番号が不明」といった場面を試します。問題が起きたときの臨時対応だけでなく、翌営業日に台帳を修正し、再発防止へつなげる手順まで決めます。

人材承継:管理者と専門相談員だけでなく、地域の信頼を残す

キーパーソンを肩書ではなく業務で特定する

組織図上の管理者が、すべての重要業務を担っているとは限りません。難しい住宅環境の選定が得意な専門相談員、国保連返戻を解決できる事務担当、病院の退院支援部門と関係が深い営業、消毒工程の異常を見抜く作業者、配送ルートを熟知する運転者など、止まると影響が大きい業務からキーパーソンを特定します。

一人しかできない仕事について、手順書、代理者、必要権限、連絡先、繁忙期を記録します。承継前の短期間ですべてを標準化するのは難しくても、重要案件を二人で処理する並走期間をつくるだけでリスクは下がります。譲渡企業の経営者が退任する場合も、問い合わせ対応の範囲と期間を明確にし、無期限の善意に依存しません。

処遇説明は利用者告知より前に準備する

職員が自分の雇用条件を知らないまま、利用者から「会社が変わるのですか」と質問される状態は避けるべきです。告知の順番は守秘義務との調整が必要ですが、少なくとも職員説明資料、想定Q&A、個別面談の枠、相談窓口を準備します。給与だけでなく、勤務地、担当区域、車両、端末、制服、経費精算、評価、休日、転勤可能性、資格更新支援を説明します。

買い手が「効率化」を急ぎ、担当制や配送頻度を承継直後に大きく変えると、職員は自分たちの専門性が否定されたと感じることがあります。まず安全とサービス継続を確保し、現行運用の理由を理解した上で改善します。残すべき地域慣行と、法令・内部統制上変えるべき属人的運用を分けて議論します。

資格・研修・勤務表を切替日から逆算する

資格証の写し、有効期限、研修履歴、雇用契約、健康診断、運転免許、秘密保持誓約、緊急連絡先を必要な範囲で整えます。福祉用具専門相談員の常勤換算は、承継予定人数ではなく実際の雇用条件と勤務予定で確認します。退職予定、育児・介護休業、病休、他事業との兼務も反映します。

初日の勤務表には、通常訪問に加えて問い合わせ増加、契約書回収、システム支援、請求確認の時間を見込みます。業務を増やしたまま通常件数を維持すれば、説明不足や入力漏れが起きます。短期間の応援要員を用意し、専門判断を要する業務と事務補助で分担可能な業務を区別します。

個人情報とシステム移行:移せることと、使ってよいことは同じではない

事業承継に伴う提供の法的位置づけを確認する

個人情報保護委員会の通則ガイドラインは、合併、分社化、事業譲渡等により事業が承継されることに伴って当該事業の個人データが提供される場合、提供先は第三者に該当しないと示しています。一方、承継後も承継前の利用目的の範囲内で利用する必要があります。したがって「M&Aなら何でも移して自由に使える」という理解は誤りです。

対象事業と関係のないデータ、退職者の私的ファイル、重複・古いデータ、営業目的へ転用するデータを分けます。介護・身体状況に関する情報は慎重に扱い、アクセスできる職務を限定します。承継方式、契約、プライバシーポリシー、本人説明との整合を弁護士や個人情報保護の担当者と確認します。

移行は件数一致だけでなく意味の一致を確認する

旧システムの「終了」「休止」「入院」「貸出中」と新システムの状態定義が異なると、件数が一致しても業務は誤ります。項目定義、必須・任意、コード、文字数、日付、全角半角、添付ファイル、履歴、権限を対応表にします。機器台帳と利用者台帳、契約と請求、担当者と居宅介護支援事業所の紐づけを確認します。

移行前のバックアップ、抽出日時、暗号化、受渡し、取込ログ、エラー、再実行、旧環境の閲覧期間、最終廃棄を記録します。本番移行後は、利用中件数、貸与品数、月額、未収、返戻、モニタリング予定、緊急連絡先の主要集計を旧環境と比較します。差異には理由と承認者を残します。

権限と端末を初日の朝から使える状態にする

職員が利用者情報へアクセスできなければサービスは止まり、広すぎる権限を与えれば漏えいリスクが高まります。職務別の標準権限をつくり、管理者、専門相談員、請求、配送、洗浄、経理の閲覧・更新範囲を決めます。退職者・対象外事業のアカウントを無効化し、共有IDを減らします。

端末、プリンター、電話、メール、VPN、多要素認証、国保連伝送、口座振替、電子契約、車載端末を実機で確認します。承継日前夜にパスワード一覧を渡すだけでは不十分です。利用者検索、納品指示、計画書印刷、請求テスト、緊急連絡まで、担当者本人が操作して完了を記録します。

デューデリジェンスで確認する現場資料

指定・運営に関する資料

  • 指定通知、更新通知、変更・休止・廃止届の控え、指定有効期間の一覧
  • 運営規程、重要事項説明書、利用契約書、料金表、苦情・事故・行政指導の記録
  • 勤務形態一覧、資格証、組織図、研修、業務継続計画、感染症対策、虐待防止の資料
  • 介護サービス情報公表、ウェブ掲示、自治体への報告、業務管理体制の届出
  • 福祉用具貸与計画、モニタリング、点検・使用説明のサンプルと未実施一覧

書類が存在するかだけでなく、実態と合っているかを見ます。運営規程の営業時間と電話受付、勤務表と訪問記録、料金表と実際の請求、点検票と現物の状態を突き合わせます。行政指導があれば、改善報告を提出したか、その後も運用が継続しているかを確認します。

請求・会計に関する資料

  • 月次の利用者数、貸与品数、介護給付費、利用者負担、返戻、過誤、未収の推移
  • 国保連伝送結果、返戻理由別台帳、再請求、給付管理票との不一致対応
  • 商品別売上・原価、再レンタル料、仕入割戻、物流・消毒委託費、修理・廃棄費
  • 口座振替契約、請求書・領収書様式、入金消込、貸倒・返金の手順
  • 月次締め後の修正仕訳、オーナー関連取引、対象外事業との共通費配賦

承継価値を判断する際は売上総額だけでなく、継続利用者から生じる粗利、再レンタル比率、機器稼働率、返戻回収、営業所別採算を確認します。介護保険売上と保険外販売、住宅改修、他サービスを分け、譲渡対象に含まれる収益と費用を再構成します。

資産・物流に関する資料

  • 個体別資産台帳、利用者宅・倉庫・修理先・委託先別の所在、所有区分
  • 再レンタル、リース、保守、倉庫、車両、洗浄・消毒、配送の契約
  • 年式、取得価額、簿価、稼働状態、点検・修理・事故・リコール履歴
  • 未処理品と処理済み品の区画、作業標準、消毒工程記録、廃棄証跡
  • 通常便、緊急便、二人作業、遠隔地を含む配送能力と繁忙期実績

台帳と現物のサンプル照合では、番号が読めない、付属品が別管理、利用終了済みなのに回収されていない、修理先から戻っていないなどの差異を確認します。差異率を把握し、全件調査が必要な領域と、承継後に是正できる領域を分けます。

Day1切替手順:前日・当日・翌営業日を分単位で決める

承継日前日までの完了条件

  1. 必要な指定・届出の受理状況と、旧新の事業所番号を確認する。
  2. 利用者説明、同意・契約、ケアマネジャー連絡の未完了一覧を責任者が承認する。
  3. 翌日訪問、納品、回収、緊急交換、住宅改修の全案件を旧新双方で読み合わせる。
  4. レンタル資産、車両、鍵、印章、端末、電話、帳票、現金等の受渡しを記録する。
  5. システム最終差分を移行し、件数・金額・主要台帳を照合する。
  6. 全職員の勤務、権限、連絡網、問い合わせ回答、障害時の代替手順を確認する。

完了していない項目を隠して形式的にサインすることが最も危険です。未完了の利用者が何人か、どのような不利益があり得るか、暫定措置は何か、誰が何時までに対応するかを可視化します。重大な前提条件が満たされなければ延期を判断できる会議体を設けます。

承継日当日の運営

朝会では、会社の理念説明より先に、当日の納品、退院、故障、回収、未完了契約、請求締め、注意が必要な利用者を共有します。旧電話番号、新電話番号、メール、FAXが着信するかを別回線からテストします。代表者や本部だけでなく、受付、営業、配送、倉庫、請求担当に意思決定者を配置します。

問い合わせは、利用者・家族、ケアマネジャー、行政、仕入先、職員に分け、件数、内容、回答、未解決、期限を記録します。同じ質問が増えれば案内文や社内Q&Aを更新します。重大事故、個人情報事故、請求不能、システム停止について、通常の連絡網とは別に経営責任者へ即時報告する基準を設けます。

翌営業日から一週間の確認

初日が無事でも、定期配送、月次請求、口座振替、再レンタル請求は後から動きます。一週間は毎日、サービス中断、納品遅延、契約未回収、問い合わせ、解約、職員欠勤、システム障害、在庫不足、個人情報事故を確認します。数字がゼロなら、報告経路が機能しているかも確かめます。

「福祉用具事業承継」の初週会議は、責任追及より事実把握を優先します。現場が小さな不具合を報告しなくなると、大きな返戻や事故として後日現れます。原因、暫定対応、恒久対応、責任者、期限を記録し、翌日の朝会で確認します。

承継後30・60・90日の安定化計画

30日:サービスと請求の基礎を安定させる

最初の30日は、利用者の安全、指定・契約、請求、緊急対応、人員配置に集中します。大胆な組織変更や商品統一は急ぎません。全利用者の契約移行状況、貸与品所在、未実施モニタリング、ケアマネジャー確認、問い合わせ、解約理由を追跡します。最初の国保連請求データを旧実績と比較し、送信前に二重確認します。

職員面談を行い、業務量、困り事、利用者の反応、旧運用と新運用の差を聞きます。退職の兆候だけを探すのではなく、現場が守ってきたサービス品質を把握します。改善提案は緊急性と影響で順位づけし、一度に多くの変更を入れません。

60日:返戻・在庫・生産性の構造的な課題を直す

二回目の請求サイクルまでに、返戻理由、入金差異、口座振替エラー、未収を分析します。資産棚卸し差異、再レンタル契約、滞留在庫、修理品、配送ルートも見直します。承継時の暫定ファイルや手入力を恒久システムへ移し、二重管理を減らします。

ケアマネジャーや主要取引先へ、切替後の不具合がなかったか確認します。単に「今後も紹介してください」と営業するのではなく、連絡のつながりやすさ、納品速度、書類、担当者対応の改善点を聞きます。寄せられた意見に対応し、結果を返すことで信頼を深めます。

90日:統合効果を利用者価値へ変える

基礎運用が安定してから、共同購買、在庫融通、洗浄拠点、システム、研修、採用、営業地域の統合を検討します。削減額だけでなく、納期短縮、欠品減少、緊急対応、専門性向上、職員負担、利用者満足への影響を評価します。統合のための統合にならないよう、指標を設定します。

「福祉用具事業承継」は90日で完全に終わるものではありません。指定更新、年度の介護報酬・上限価格対応、契約更新、繁忙期、職員評価を経験して初めて見える課題があります。承継時のリスク台帳を通常の内部監査・経営会議へ引き継ぎます。

よく起きる失敗と、その場で取る対応

新しい事業所番号が居宅側へ伝わっていない

まず影響する利用者とサービス提供月を特定し、担当居宅へ事実と必要な修正を個別に伝えます。国保連への再請求時期、利用者請求への影響、資金繰りを整理します。同時に、送付済み一覧ではなく受信・理解確認一覧へ管理方法を変えます。誰が悪いかを議論する前に、同じ誤りが他の居宅でも起きていないか全件点検します。

利用者から「聞いていない」と苦情が入る

説明記録の有無だけを示して反論せず、何が不安かを聞きます。機器を継続できるか、料金、担当、連絡先、個人情報の扱いを改めて説明し、必要ならケアマネジャーと訪問します。文書が届いていても理解できていなければ、実質的な安心にはつながっていません。苦情内容を属性別に集計し、説明方法を変えます。

台帳上の機器と利用者宅の機器が違う

請求停止や一律回収を即断せず、利用者の安全を確保した上で、製造番号、付属品、納品・交換履歴、再レンタル会社の台帳を確認します。誤請求の可能性、点検・リコール対象、所有権を評価し、ケアマネジャーにも必要な報告を行います。類似案件を抽出し、担当者単位・時期単位の根本原因を調べます。

管理者・専門相談員が直前に退職する

指定基準と勤務体制を直ちに再確認し、指定権者へ相談します。名義だけの配置や無理な兼務で埋めず、承継日延期、対象事業所の除外、応援配置、採用を含めて判断します。職員の不安が広がっている場合は、個別の引留めだけでなく、処遇・方針・業務負担を全体へ説明します。

国保連伝送はできたが入金が想定より少ない

伝送受付を請求成立とみなさず、査定・返戻・保留、給付管理票、事業所番号、受給者情報、サービスコードを確認します。旧法人・新法人双方の入金口座と請求月を照合し、過去月の再請求や過誤を分けます。原因が承継データにある場合は、全件への影響を金額で見積もり、資金計画を更新します。

譲渡企業の経営者が価値を守るために今からできること

三つの台帳を一致させる

利用者台帳、貸与品台帳、請求台帳を月次で突き合わせます。利用中なのに請求がない、請求中なのに所在が不明、終了済みなのに回収されていない案件を解消します。買い手は売上だけでなく、売上が正しい契約と資産に裏づけられているかを見ます。台帳精度が高い会社は、承継リスクを説明しやすくなります。

返戻と未収を「担当者の仕事」にしない

返戻理由、再請求日、回収結果を経営指標として管理します。未収も利用者負担、国保連、公費、取引先に分け、長期化理由を確認します。担当者だけがExcelで管理していると、退職や承継で回収不能になります。月次会議で件数・金額・滞留日数を共有します。

地域関係を組織の資産にする

ケアマネジャーや医療機関との信頼は重要ですが、個人営業の名刺箱だけでは承継できません。連絡履歴、得意分野、勉強会、苦情対応、紹介後の報告ルールを適切に記録し、複数職員で関係を築きます。個人情報と営業倫理に配慮しつつ、地域連携を再現可能な業務にします。

売却準備を廃業準備に見せない

承継を考え始めた後も、採用、研修、機器更新、システム保守、安全対策を止めないことが大切です。投資停止は職員と取引先に伝わり、サービス品質と企業価値を同時に下げます。将来の買い手が使うからこそ、必要な更新を記録と根拠をもって行います。

福祉用具貸与と販売・住宅改修を同じ切替にしない

貸与は毎月続く取引だから、基準日を複数持つ

福祉用具貸与には、契約日、納品日、利用開始日、計画作成日、モニタリング日、月次請求日、回収日があり、一つの「売上日」だけでは管理できません。承継日をまたいで継続利用する案件では、誰が安全点検と故障対応を担い、どの事業所番号で何月分を請求し、利用者負担をどちらが受け取るかを一貫させます。月中の入院、死亡、施設入所、要介護認定の変更、商品交換が重なる案件は、通常案件と分けて読み合わせます。

利用者宅に置いた用具は、会社の資産であると同時に生活環境の一部です。貸与契約だけを移して保守契約が移らない、請求データだけを移して納品履歴が欠ける、といった分断を防ぎます。継続案件一覧には、契約・計画・機器・請求・保守の五つの確認欄を設けます。

特定福祉用具販売は支給申請と受領方法まで追う

特定福祉用具販売では、購入時点、領収日、販売計画、自治体への支給申請、償還払いまたは受領委任等の地域運用を確認します。承継前に受注し、承継後に納品する案件、旧法人名の見積書を出した後に新法人が販売する案件、返品・交換が承継後になる案件について、契約・領収・申請書上の事業者を一致させます。自治体によって必要書類や受領委任の登録が異なるため、対象市町村ごとの確認表が必要です。

販売済みの商品に不具合が出た場合の保証、メーカーへの照会、利用者からの相談も引き継ぎます。売上が一度で完了するからといって、販売事業の責任が承継日に消えるわけではありません。過去販売台帳、製造番号、保証期間、取扱説明書の交付、選定・適合の記録を検索できるようにします。

住宅改修は着工前・施工中・完了後で責任を区切る

住宅改修には、現地調査、理由書との整合、見積、事前申請、承認、契約、施工、写真、完了報告、支給申請、集金、瑕疵対応があります。承継日現在の案件を、相談のみ、見積提出、事前申請中、承認済未着工、施工中、完了未請求、入金待ち、保証対応中に分けます。施工会社へ発注した法人と利用者へ請求する法人が食い違わないように、案件ごとの責任主体を決めます。

手すりの位置や段差解消は、利用者の身体状況と家屋に合わせた個別工事です。承継の都合で仕様を変更せず、担当ケアマネジャー、理由書作成者、施工者との合意を確認します。工事保険、建設業関係の許可・資格、廃材処理、近隣対応、アフターサービスについても、介護保険指定とは別に確認が必要です。

選択制・軽度者・価格上限など、例外案件を承継する

貸与と販売の選択制は説明経緯を残す

厚生労働省は、2024年4月から固定用スロープ、歩行器のうち歩行車を除くもの、単点杖のうち松葉づえを除くもの、多点杖を貸与と販売の選択制の対象としています。対象用具については、利用者が選択できることを説明し、必要な情報を提供し、関係者の意見や身体状況等を踏まえて提案する取扱いがあります。承継では、どの情報を示し、なぜ貸与または販売となったかという説明経緯を移します。

買い手の標準商品や販売方針へ一律に合わせると、利用者の選択と個別判断が見えなくなります。対象者一覧、選択日、提案内容、選択結果、モニタリング予定を抽出し、計画書とシステム項目が新環境でも保持されるか確認します。

軽度者への例外給付は根拠と有効期間を引き継ぐ

要支援・要介護1の利用者などについて、種目によっては原則給付対象外であり、認定調査結果や市町村への確認等に基づく例外的な取扱いがあります。対象者を単に「継続利用」として移行すると、判断根拠や確認期限が欠け、請求に影響する可能性があります。認定有効期間、基本調査結果、医学的所見、サービス担当者会議、市町村確認の記録を案件ごとに確認します。

更新認定や区分変更の途中で承継日を迎える利用者は、暫定ケアプラン、請求保留、遡及処理が発生し得ます。通常の請求テストとは別に、認定待ち一覧を旧新担当者で共有し、結果判明後の連絡と請求責任を決めます。

全国平均貸与価格・上限価格のマスターを統合する

福祉用具貸与では商品コードごとの全国平均貸与価格や上限価格が公表され、最新コードとの照合が必要です。旧システムと新システムで商品コード、商品名、月額、適用開始月の管理方法が違えば、移行時に誤った価格が設定されるおそれがあります。商品マスターの版、更新日、出典、適用月を記録し、用具のコード変更にも対応できるようにします。

利用者への料金案内と請求マスターを別々に直すと差異が生じます。料金表、重要事項説明書、見積、契約、請求、ケアマネジャーへの提供情報を同じ承認済みマスターから出力する設計が望まれます。承継月に価格改定が重なる場合は、承継案内と価格変更案内を混同せず、変更理由と適用日を分けて説明します。

仕入先・再レンタル会社・メーカーの承継

取引条件より先に供給停止リスクを確認する

買い手が大手であっても、取引口座の新設、与信審査、基本契約、保証金、EDI設定に時間がかかることがあります。承継日から商品を発注できるか、再レンタル中の機器を継続できるか、修理部品を取り寄せられるかを仕入先ごとに確認します。譲渡企業の取引条件を当然に引き継げるとは限らないため、承諾条件と切替日を記録します。

主要仕入先へ伝える時期は守秘義務と供給継続の両面から決めます。承継直前に初めて相談し、保証や入金実績が不足して出荷保留となれば、利用者への納品に影響します。一方、交渉初期に広く伝えると情報管理が難しくなります。重要契約として早期承諾を条件化する方法を検討します。

再レンタル品は終了・継続・名義変更を一件ずつ照合する

再レンタル会社の台帳と自社台帳を、契約番号、利用者、商品、個体番号、開始日、月額、付属品で照合します。承継後も同じ機器を利用者宅に置く場合、旧契約をいつ終了し、新契約をいつ開始するか、空白や二重請求がないかを確認します。再レンタル会社から利用者へ直接配送している場合は、連絡先と個人情報の取扱いも更新します。

譲渡企業のボリュームディスカウントが失われる場合や、買い手の包括契約に切り替わる場合は、採算と商品ラインアップに影響します。承継直後に利用者負担や商品を変更せずに済むよう、一定期間の経過措置を交渉します。

メーカー安全情報の受信先を二重化する

リコール、改修、部品供給終了、使用上の注意などの情報が旧担当者の個人メールだけに届いていないか確認します。法人共通アドレス、担当部署、代理者を登録し、受信した情報を対象個体へ結びつける手順を定めます。メーカーの販売管理サイトや修理受付サイトのアカウントも、契約承継と同時に切り替えます。

過去に安全対応を行った機器について、完了日、利用者説明、交換・改修内容、未完了理由を移行します。完了フラグだけでなく証跡を残し、承継後の問い合わせに答えられるようにします。

会計・資金の境界:売上と入金の時差を見落とさない

クロージング精算は請求権の帰属から設計する

サービス提供月と国保連からの入金月には時差があります。承継前に提供したサービスの返戻再請求が承継後に成立することもあります。旧法人と新法人のどちらに売上・債権が帰属し、どちらが請求事務を行い、誤った口座へ入った資金をいつ精算するかを契約と運用で一致させます。

利用者負担、住宅改修、物販、再レンタル原価、仕入債務、前受金、保証金、未払賞与、有給休暇等も基準日を決めます。会計上の帰属だけでなく、問い合わせと返金を誰が担うかを指定します。精算書は勘定科目別合計だけでなく、利用者・取引先別の明細へたどれるようにします。

運転資金を返戻率の上振れまで含めて見積もる

新法人の初回入金までの給与、再レンタル料、仕入、倉庫・車両費を賄う資金が必要です。承継時の返戻、口座振替遅延、取引口座切替による支払サイト変更を織り込みます。通常月の平均入金だけで資金計画を組まず、指定・請求の遅れを想定した余裕を持たせます。

譲渡企業側も、承継後に残る税金、退職金、未払費用、保証債務、対象外事業の運営資金を確認します。譲渡対価の入金だけを見ず、クロージング精算と最終的な手取りを専門家と試算します。

管理会計の定義を統合前に合わせる

利用者数、稼働台数、売上、粗利、解約、返戻の定義が譲渡企業と譲受企業で異なることがあります。たとえば入院中の利用者、同月開始終了、再レンタル原価、配送人件費をどこへ含めるかで指標は変わります。統合効果を測る前に、計算式とデータ源を定義します。

承継前の実績を買い手の定義で再計算し、比較可能な基準値をつくります。数字が改善したように見えても、定義変更によるものなら現場改善とはいえません。経営会議資料には旧定義からの差を注記します。

コミュニケーション設計:相手別に「変わること・変わらないこと」を書く

利用者・家族向け

案内文の冒頭で、現在利用中の福祉用具を引き続き安全に利用できるか、担当・料金・連絡先に変更があるかを明示します。変更が未確定なら曖昧な約束をせず、確定時期と次回案内を示します。問い合わせ先には受付時間と緊急時の連絡方法を載せ、聴力・視力・認知機能に配慮した文字サイズと説明方法を選びます。

同意や再契約が必要な場合は、署名を得ることを目的にせず、内容を理解して選べるよう説明します。解約や他事業者への変更を希望する利用者に圧力をかけず、ケアマネジャーと協力して不利益のない移行を行います。

職員向け

職員説明では、取引の理由、承継方式、予定日、雇用、処遇、勤務地、経営方針、利用者対応、情報管理を区別して話します。確定事項と検討中事項を明確にし、質問にその場で答えられない場合の回答期限を約束します。経営者が一度話して終わるのではなく、個別面談と継続的な質問窓口を設けます。

利用者や地域関係者への説明解禁日、使用してよい資料、SNS投稿、報道・競合からの問い合わせ対応も伝えます。守秘義務を強調するだけでなく、なぜ順番が重要かを説明し、職員が不安から憶測を広げる状態を減らします。

地域のケアマネジャー・医療介護関係者向け

連絡文には、対象利用者、切替日、事業所番号、担当・電話・FAX、計画書・実績・請求への影響を載せます。地域ネットワークを大切にする方針を具体的なサービス水準で示し、単なるブランド変更のお知らせにしません。利用者ごとに確認が必要な事項は、個人情報を安全に扱える経路で別送します。

承継後の挨拶訪問では、取引継続のお願いだけでなく、前後の連絡で困ったことがなかったかを聞きます。指摘を記録し、改善結果を共有します。この往復が、承継後の信頼を形にします。

地方・中山間地域で追加すべき承継設計

配送距離と緊急対応を採算だけで切らない

利用者密度が低い地域では、一件当たりの配送時間と燃料費が大きくなります。しかし、遠隔地の利用者ほど代替事業者が少なく、サービス停止の影響が深刻です。買い手は営業所別採算を確認しつつ、曜日便、共同物流、サテライト拠点、現地協力会社、予備品配置などで継続方法を検討します。

冬季の積雪、豪雨・台風、道路通行止め、フェリー、携帯電波、独居高齢者の見守りなど、地域特有の条件を引き継ぎます。災害時に優先する利用者、電源を要する機器、代替機、職員の安否確認、燃料確保を業務継続計画へ反映します。

自治体・地域包括との関係を早期に確認する

小規模地域では、担当者の変更がサービス全体に与える影響が大きいことがあります。指定手続だけでなく、受領委任、住宅改修、軽度者例外給付、地域ケア会議、災害協定等の実務を確認します。譲渡企業の経営者が担っていた地域活動について、買い手が継続するものと終了するものを整理し、相手方へ誠実に伝えます。

地域の事業者同士で緊急時に機器を融通していた場合、口約束のまま承継しません。責任、費用、個人情報、点検・消毒を明確にし、利用者の安全を損なわない形へ整えます。

承継プロジェクトを管理する会議と指標

一つの課題台帳に法務と現場を載せる

課題台帳には、項目、対象事業所・利用者、リスク、期限、責任者、関係者、前提条件、状況、証跡、エスカレーション基準を持たせます。法務の契約承諾と現場の発注継続を別々の表で管理すると、一方だけ完了するため、同じ課題番号で紐づけます。

会議は、経営判断を行うステアリング会議、領域横断のプロジェクト会議、現場の日次確認に分けます。すべての会議へ全員を集めず、判断事項と報告事項を整理します。重大リスクは色だけで表さず、利用者影響、金額、発生確率、期限を文章で記載します。

継続性を測る先行指標

  • 利用者説明・契約・同意の完了率と、期限超過件数
  • ケアマネジャーへの通知と受信確認率、未確認先の利用者数
  • 利用中機器の個体突合率、所有者不明・所在不明の件数
  • 指定・契約・システム・人員の承継日前テスト合格率
  • 予定訪問の遅延、緊急交換の応答時間、問い合わせ未解決件数
  • 国保連返戻率、口座振替エラー、未収、入金差異
  • 欠勤・残業・退職意向、研修と権限付与の完了率

売上だけでは、問題が起きてからしか把握できません。説明・照合・テストの完了率を先行指標とし、返戻・解約・事故を結果指標として追います。指標に異常が出たら、単に担当へ催促するのではなく、工程や人員を調整します。

変更を凍結する期間を設ける

承継日前後に、料金、商品マスター、担当区域、帳票、システム改修を同時に変えると、原因の切り分けができません。法令対応や安全上必要な変更を除き、一定期間は大規模変更を凍結します。どうしても変更する場合は、目的、影響範囲、テスト、承認、戻し方を記録します。

安定後に改善を再開するときも、一つずつ効果を測ります。現場の二重入力を減らす、緊急在庫を適正化する、計画書交付を確実にするなど、利用者と職員にとっての価値を説明できる変更から着手します。

時期別の実務成果物:いつまでに何を完成させるか

6〜12か月前:経営者だけで基礎資料を整える

初期段階では情報を広げすぎず、指定事業所一覧、月次試算表、利用者・商品・居宅介護支援事業所別の集計、従業員一覧、資産・再レンタル一覧、主要契約、行政指導・事故・返戻の履歴を経営者と限られた担当者で整えます。個人を特定する情報は初期評価に必要な範囲まで集計し、原本データの閲覧権限を限定します。この時点で台帳差異や指定更新漏れが見つかれば、通常業務として是正し、M&Aのためだけの一時的な数字づくりはしません。

売却理由、希望時期、譲れない条件も文章にします。全従業員の雇用継続、拠点維持、屋号、取引先、経営者の退任時期など、希望と必須条件を分けます。条件を明確にすると、候補先の規模や価格だけでなく、利用者と地域に合う承継先を比較しやすくなります。

3〜6か月前:買い手と切替設計を共同でつくる

候補先が絞られたら、承継方式、指定、契約、人員、資産、システム、請求の各作業部会を設定します。自治体相談へ持参する事実関係を共同で確認し、旧新の責任分界を一枚の図にします。利用者説明文、職員説明資料、ケアマネジャー通知、仕入先承諾依頼は、この時期に草案を作り、法務と現場の双方で読みます。

デューデリジェンスで見つかった課題は、価格交渉だけの材料にせず、承継日前是正、承継後是正、リスク負担、対象除外のいずれかへ分類します。たとえば資産台帳差異があるなら、全件棚卸しの期限と差異精算方法を決めます。指定申請に必要な人員が不足するなら、採用・応援・日程変更を早期に選びます。

1〜3か月前:全件管理へ移る

利用者単位の契約移行、機器突合、ケアマネジャー連絡、請求切替を開始します。最終契約の前提条件とプロジェクト課題を対応させ、どの未完了が承継延期につながるかを明確にします。新規指定が必要な場合は、審査・補正・現地確認の日程を追い、指定通知が出るまで確定扱いにしません。

職員には必要な時期に正式説明を行い、個別意向を確認します。譲渡企業と譲受企業の管理者が共同で現場巡回し、倉庫、洗浄・消毒、配送、受付、請求、緊急対応を確認します。書類上の業務説明と実際の動きが違う場合、現場の理由を聞き、切替手順を修正します。

最終4週間:週次から日次へ管理頻度を上げる

残り四週間は、未完了利用者、指定補正、人員、重要契約、データ移行、請求テスト、電話・端末を週次で確認し、最終週は日次へ切り替えます。進捗率だけでなく、未完了の絶対件数と利用者影響を報告します。完了率99%でも、残る1%が緊急性の高い利用者なら重大です。

承継前の最終営業日には、当日以降の訪問予定、入退院、認定更新、故障、未収、返戻、住宅改修案件を読み合わせます。データの最終抽出時刻以降に生じた変更を「差分台帳」で手渡し、二重入力や取りこぼしを防ぎます。

利用者別の移行シートに入れる実務項目

基本情報と関係者

被保険者番号、保険者、認定区分・有効期間、負担割合、公費、住所、連絡方法、家族・代理人、担当ケアマネジャー、居宅介護支援事業所、主な医療・介護関係者を記録します。ただし、閲覧者ごとに必要項目を制限し、プロジェクト全員へ詳細な身体・医療情報を開放しません。連絡上の配慮や緊急連絡先は、通常のサービス提供に必要な範囲で正確に移します。

誰に説明し、誰から同意を得るべきかを判定します。本人、家族、成年後見人等の関係が曖昧な案件は、ケアマネジャーと確認し、便宜的な署名で処理しません。郵送物の送付先と実際の居住先が異なる場合もあります。

契約・計画・請求

旧新契約番号、契約主体、契約移行方法、重要事項説明、同意・交付、福祉用具貸与計画、最終モニタリング、次回予定、選択制説明、軽度者例外給付、貸与価格、旧新事業所番号、切替提供月、口座振替を一つの行から参照できるようにします。添付ファイルの所在や原本保管場所も記載します。

請求保留、返戻、過誤、未収、入院中、認定申請中などの例外はフラグ化し、通常案件から抽出できるようにします。例外フラグには解除条件と次回確認日を持たせ、承継後に永久に「保留」として残らないようにします。

機器・安全・物流

商品名、商品コード、個体番号、付属品、所有者、再レンタル契約、設置日、最終点検日、修理・事故・リコール、設置場所、搬入上の注意、緊急代替品を記録します。大型機器では階段、エレベーター、駐車、二人作業、施設の搬入時間を引き継ぎます。使用上の注意は身体状況と結びつくため、必要な職員だけが閲覧できるようにします。

承継日後に最初に予定される訪問、交換、回収、モニタリングの日を明示します。初回接点で担当者が旧記録を理解しているか確認し、移行精度の実地検証とします。

譲渡企業・譲受企業の役割分担を曖昧にしない

譲渡企業が担うべきこと

譲渡企業は、正確な資料開示、利用者・地域関係者との過去経緯、例外運用、資産所在、請求履歴を説明します。問題を隠して価格を守ろうとすると、承継直後のサービスに影響し、表明保証や補償の争いにもなり得ます。未解決事項は事実、影響、暫定対応を整理し、買い手が判断できる形で示します。

経営者個人の関係を引き継ぐ際は、紹介の場を設けるだけでなく、買い手担当者が自ら応答できる並走期間をつくります。承継後も譲渡企業がすべての電話を受け続ける状態は、新体制の定着を遅らせます。

買い手が担うべきこと

買い手は、資金とブランドだけでなく、指定、人員、システム、仕入、物流、個人情報を受け入れる能力を準備します。既存の標準手順を一方的に当てはめず、譲渡企業の運用が地域と利用者に合わせて形成された理由を確認します。法令違反や安全上の問題は直ちに是正しつつ、単なる様式差は安定後に統合します。

承継前から現場責任者を任命し、意思決定の窓口を一本化します。本部の法務、情報システム、経理から別々の指示が出ると、譲渡企業の現場は優先順位を判断できません。利用者影響を基準に変更の順番を調整します。

共同で決めるべきこと

利用者説明、ケアマネジャー連絡、指定相談、データ移行、Day1運営、障害対応、返戻処理、過去案件照会は共同設計が必要です。責任分界表では、実施者だけでなく承認者、相談先、報告を受ける者を定めます。旧新双方が「相手がやると思った」という空白をなくします。

承継後の協力契約を設ける場合、期間、時間、対象業務、報酬、連絡方法、個人情報、責任を具体化します。譲渡企業の経営者の経験は貴重ですが、属人的な無償協力を前提にせず、新会社が自立する出口を決めます。

承継日の前に行う「切替リハーサル」

福祉用具事業の切替は、契約書や移行計画を読んだだけでは検証できません。厚生労働省の指定基準が求める相談、選定、調整、計画、モニタリング、衛生管理などの連続性を念頭に、実際の一日を想定した机上演習を行います。指定権者への相談結果、旧新の事業所番号、システム切替時刻、緊急連絡先を確定したうえで、承継日の六十日前、三十日前、七日前に同じシナリオを繰り返し、未解決項目が減っているかを確認します。

リハーサルには経営者だけでなく、旧新の管理者、福祉用具専門相談員、請求担当、配送・倉庫担当、情報システム担当を参加させます。参加できない職種がある場合は代替者が手順を説明できるかを確かめます。会議で「対応可能」と回答するだけでなく、必要な画面、帳票、電話番号、鍵、車両、在庫が実際に使えるところまで進め、発見した課題には期限と再試験日を付けます。

シナリオ1 朝一番の緊急交換を新体制で受ける

承継日午前八時に、特殊寝台が動かないという連絡が家族から入った想定で演習します。新しい電話番号に着信するか、旧番号から転送されるか、担当者が利用者、設置商品、付属品、身体状況、搬入条件を必要な範囲で確認できるかを試します。代替品の所在、配送担当、二人作業の要否、メーカー照会、事故報告の判断、ケアマネジャーへの連絡を時系列に並べ、旧会社の担当者が不在でも完了できるかを確認します。

この演習で個人情報へアクセスできない場合、全員へ広い権限を付けて解決してはいけません。当直者が必要な利用者記録だけを閲覧でき、操作ログが残る権限設計にします。旧環境を参照する暫定措置を設けるときは、閲覧期限、対象者、印刷・持出しの禁止、停止責任者を決めます。緊急性を理由に恒久的な共有アカウントを残さないことが重要です。

シナリオ2 月をまたぐ請求を一件ずつ再現する

通常貸与、月途中の開始、入院による停止、商品交換、負担割合変更、認定申請中、返戻再請求の代表例を一件ずつ選びます。それぞれについて、サービス提供法人、指定日、契約、貸与計画、商品コード、単価、給付管理票、国保連伝送、利用者請求、入金口座を旧新の担当者が同じ表へ記入します。月初承継であっても、前月分の返戻や利用者負担の回収は後から発生するため、旧法人が残すデータと照会窓口を削除時期まで定めます。

テスト用データを本番環境へ送信しないよう、検証方法は国保連合会や使用システムの案内を確認します。画面を見せ合うだけではなく、誰がデータを確定し、誰が承認し、送信結果を誰が照合するかを決めます。エラーが出た場合に旧新どちらが修正するか、利用者へ二重請求した場合の返金主体、過去分の問い合わせに必要な保存期間も、最終契約と業務手順の双方へ反映します。

シナリオ3 貸与と販売の選択説明を引き継ぐ

固定用スロープ、歩行車を除く歩行器、松葉づえを除く単点杖、多点杖は、2024年度から貸与と販売の選択制の対象です。対象利用者を一件抽出し、旧担当者が行った説明、専門職等の意見、選択結果、貸与開始日、六か月以内のモニタリング予定を新担当者が確認できるかを試します。承継によって担当者が変わっても、モニタリング期限がリセットされると考えず、最初の提供開始日と既往記録を引き継ぎます。

販売を選んだ利用者についても、販売計画の目標達成状況や、要請があった場合の使用状況確認・助言に対応できる窓口を確認します。旧会社独自の帳票名と新会社のシステム項目が異なるときは、意味を対応表にし、未移行の自由記載や添付ファイルがないかを点検します。制度資料の文言だけを研修するのではなく、実際の利用者記録を匿名化した教材で手順を通すことが有効です。

シナリオ4 倉庫の一台を利用者宅まで追跡する

倉庫から無作為に一台を選び、商品コード、個体番号、所有者、消毒・点検日、貸与可能状態を台帳と照合します。次に貸与中の一台を選び、契約、納品、設置場所、付属品、修理履歴、最終確認日、卸レンタルの請求明細まで追跡します。旧会社のラベルと新会社の管理番号を貼り替える場合は、旧番号から検索できる対照表を残し、二重登録や所在不明を防ぎます。

回収品が清潔品区域へ混入した、消毒記録を移行できない、卸会社の名義変更が未完了といった事象を想定し、隔離場所と判断責任者を決めます。在庫不足時の緊急調達先も、契約上利用できるかを事前に確かめます。承継日に台帳残高を合わせることだけでなく、翌日に安全な商品を出庫できる状態を合格条件とします。

演習結果は「延期判断」に使える形で残す

演習記録には、シナリオ、参加者、使用した資料、開始・完了時刻、失敗した操作、利用者影響、暫定措置、恒久対応、再試験日を記載します。指定、人員、緊急対応、請求、個人情報のいずれかに重大な空白がある場合は、予定日を守ることだけを優先せず、取引契約上の前提条件や延期手続きを確認します。問題を見つけた演習は失敗ではなく、承継前に事故を防げた証拠です。

最終回では、譲渡企業側が説明しなくても買い手側だけで各シナリオを完了できるかを試します。完了後に旧担当者が答え合わせを行い、現場判断の根拠が手順書や記録へ移っているかを確認します。この状態になって初めて、承継後の協力が「常時代行」ではなく、限定的な相談支援へ変わります。

さらに、演習で使った利用者情報は本番データと同じ管理対象として扱います。紙に転記した場合は通し番号を付け、回収枚数と廃棄責任者を記録します。画面写真やオンライン会議の録画を安易に残さず、保存が必要なら目的、閲覧者、期限を明確にします。承継訓練そのものが新たな情報漏えい経路にならないよう、終了時のデータ確認までを一つのシナリオに含めてください。

欠席者には議事録を送るだけで終えず、担当する操作を後日実演してもらいます。特に夜間・休日の連絡担当、請求確定者、倉庫の鍵を管理する職員は、代替者まで同じ手順を実行できることを確認します。

実行前の最終チェックリスト

指定・契約・地域連携

  • 承継方式と法人同一性を踏まえ、指定権者へ書面を用いて事前相談した
  • 旧指定の廃止日と新指定日、事業所番号、サービス提供月の関係が確定した
  • 管理者・専門相談員の勤務実態と資格を確認し、欠員時の代替案がある
  • 利用者別に説明・同意・契約・計画書交付の進捗を追跡している
  • ケアマネジャー等へ何月分から何が変わるか伝え、受信確認を終えた

請求・資産・物流・情報

  • 利用者×提供月×事業所番号の請求切替表を作り、代表パターンをテストした
  • 国保連伝送、返戻、再請求、入金、利用者口座振替の責任者が決まっている
  • 利用者宅を含む個体別資産台帳と所有区分を確認した
  • 回収・洗浄・消毒・点検・保管・配送の責任分界と処理能力を確認した
  • 個人データの対象、利用目的、移行ログ、権限、旧環境廃棄を管理している
  • 初日、一週間、30日、60日、90日の指標と会議体が設定されている

チェックの目的は、書類に印を付けることではありません。未完了項目が利用者に与える影響を把握し、承継日までの解決、暫定措置、延期判断のいずれかを選べる状態にすることです。

よくある質問(FAQ)

Q1. 株式譲渡なら利用者への説明や契約変更は不要ですか。

法人と契約当事者が同一であれば、事業譲渡のような契約主体変更は通常生じません。ただし、代表者、窓口、請求書表記、支払先、担当体制、個人情報の取扱い等が変わる場合は、契約条項、介護保険上の書類、利用者への分かりやすい説明を確認してください。法的に契約が続くことと、利用者が安心してサービスを続けられることは別です。

Q2. 事業譲渡で旧事業所番号をそのまま使えますか。

別法人への事業譲渡では、譲受法人による新規指定と新しい事業所番号が必要となることを基本線に、指定権者へ確認すべきです。承継方式、法人格、自治体の取扱いによって必要手続が変わるため、旧番号を使えるという前提で請求システムを設定してはいけません。サービス提供月と指定日、給付管理票も一緒に相談します。

Q3. 利用者データは買い手へそのまま渡せますか。

個人情報保護委員会のガイドラインは、事業承継に伴う個人データの提供について提供先を第三者に該当しないとする取扱いを示していますが、対象事業に係るデータであること、承継前の利用目的の範囲内で利用することなどが重要です。初期検討から全データを開示せず、匿名化、段階開示、アクセス制御を行い、具体的な方式は専門家へ確認してください。

Q4. 承継日は月初にすれば国保連請求は安全ですか。

月初は整理しやすい一面がありますが、新規指定日、契約日、人員、給付管理票、データ移行、口座振替がそろわなければ安全とはいえません。月中承継の取扱いも含め、指定権者・国保連合会へ具体例を示し、利用者×提供月×事業所番号の切替表を作ることが必要です。

Q5. 福祉用具事業の売却相談は、いつ始めるのがよいですか。

指定申請、利用者説明、人員承継、資産棚卸し、契約承諾には時間がかかるため、希望時期の直前ではなく、経営が安定している段階から準備するのが望ましいです。まず匿名で選択肢を整理し、売却を決める前に課題と日程を把握する方法もあります。相談開始がそのまま売却決定を意味するわけではありません。

福祉用具事業承継は「利用者を主語」にすると判断がぶれない

承継方式、価格、税務、契約は重要ですが、最後の判断軸は利用者が必要な用具を安全に使い続けられるかです。指定と請求をつなぎ、利用者契約とケアプランを整合させ、担当職員と地域の連携を残し、個体ごとの機器と衛生工程を追えるようにする。その積み重ねが、買い手にとっての事業価値と、譲渡企業が守りたい信用の双方を支えます。

切替後に得た返戻、問い合わせ、在庫差異、職員負担の情報は、次回の指定更新や拠点統合にも生かせます。承継プロジェクトの記録を通常の品質改善へ戻すところまでが、地域サービスを強くする仕上げです。

福祉用具M&A総合センターでは、福祉用具会社の特性を踏まえ、承継方式の整理から買い手候補の検討、指定・利用者・人員・資産・請求の移行論点まで、秘密保持に配慮してご相談を承ります。まずは福祉用具会社の売却を検討する方へをご覧ください。対象となる業種・事業領域もご確認いただけます。具体的な社名を出す前の段階でも、売却・事業承継の無料相談からお問い合わせください。

参考にした公的資料

  • 厚生労働省「福祉用具・住宅改修」
  • 厚生労働省「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」
  • 厚生労働省「介護サービス関係Q&A集」
  • 厚生労働省「介護給付費請求書等の記載要領について」
  • 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
  • 厚生労働省「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」関連資料

本稿は公開資料に基づく一般的な情報であり、個別案件の法務・労務・税務・会計・行政手続に関する助言ではありません。制度改正や自治体運用を確認し、弁護士、税理士、社会保険労務士その他の専門家および指定権者へご相談ください。

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情報の位置づけと確認資料

制度や手続は変更される場合があります。公開資料と福祉用具事業の実務論点をもとに編集し、個別案件では法務・税務・労務・行政手続の専門家確認を前提としています。

  • 厚生労働省「福祉用具・住宅改修」
  • 中小企業庁「中小M&Aガイドライン」
  • 中小企業庁「事業承継・引継ぎ支援センター」

最終更新:2026年8月4日 / 編集方針を見る

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